『小川郷駅架空索道(空中ケーブル)』(平成30年9月26日市公式SNS投稿)
更新日:2023年3月3日
いわきの『今むがし』Vol.103
小川郷駅東側に建設中の頁岩積込場-長さ50m、高さ20mの巨大な積込場-〔昭和37(1962)年10月、国府田英二氏提供〕
小川郷駅や磐越東線については、これまで第8回、第38回、第78回でそれぞれ紹介してきましたが、今回は小川郷駅に頁岩(けつがん)と呼ばれる粘土質の岩石を運んだ架空索道について、紹介します。
頁岩とは、水中の泥が堆積して出来たもので、セメントの原料として使われ、いわき地方では、平上平窪や小川町下小川、四倉町駒込などに分布しています。
四倉町に既設工場を持ち、田村郡大越町に新設工場を建設中の磐城セメントにとって、その中間地となる地に原料地を持つことは、多少運送費がかかるにしても利点がありました。この輸送と採掘事業を担うため、昭和37(1962)年に小川工業(株)が設立。架空索道(空中ケーブル)が建設されて翌年1月から操業が開始されました。
昭和38(1963)年新年号の小川公民館報には、この事業が紹介されています。
「平市平窪から当町下小川にかけての地下にあるセメント原料の頁岩を、ケーブルによって、下小川、関場(せきば)、西小川、三島、高萩を通じて小川郷駅へ輸送し、小川郷から磐城セメント(磐城セメント(株)は昭和38年10月に住友セメント(株)へ組織替え)田村工場(磐越東線大越駅。当時建設中)へ毎月2万1千トン、四倉工場へ1万5千トン合計3万6千トンを輸送、将来田村工場の増設に伴い、月4万5千トンを輸送する計画である。
この施設の総工費(採掘場、ケーブル、積込場、鉄道引っ込み線等)は3億7千万円、この事業を運営するために、去る11月1日に『小川工業株式会社』が設立され、原料頁岩の採掘、輸送すべてを行うが、全部機械化されているので、60名足らずの作業員で進むことになっている」
架空索道(空中ケーブル)は、小川郷駅と平上平窪字大沢(おおさわ)の通称「駒込粘土山」の間約4kmに結ばれたもので、地上からの高さ5~30mに敷設され、130~150m間隔でバケットが運ばれていました。この間に建設された鉄塔は31本。国道399号や県道小野-四倉線、田んぼや畑地、山林の上空を、時速約3.3kmのスピードで絶え間なく動いていました。
上 施設撤去後の小川郷東側-遠方に見えるのは小川保育所 (平成7年4月開園)-〔平成7(1995)年6月、高萩純一氏撮影〕
下 小川郷駅の東側〔平成30(2018)年9月、いわき市撮影〕
架空索道(空中ケーブル)は、最盛期の昭和47(1972)年には年間約45万トンの頁岩(けつがん)を運びました。
しかし、昭和50年代に入ると、円高によるセメント業界の不況によって年々輸送量は減り続け、昭和58(1983)年3月には、受注先の住友セメント(株)四倉工場が閉鎖。前年25万トンであった輸送量が、この年には17万トンに激減してしまいました。
このため、貨物輸送の最低輸送ライン月1万5千トンを維持できない状況となり、昭和60(1985)年6月末で、架空索道(空中ケーブル)による貨車輸送からトラック輸送に切り替えられて、田村工場に運ばれることになりました。
鉄道輸送の廃止は、小川郷駅を持つ国鉄(JRの前身)にとっても大きな痛手となりました。年間1億2千万円の減収となるだけでなく、駅員も8人から6人へ縮小されました。また、すでに昭和49(1974)年10月、頁岩関連の専用車以外の貨物取り扱いが廃止済みでしたが、昭和60年7月には、すべての貨物取り扱いが廃止されました。
こうして、20年余、小川の風物詩としてゆっくり空を動いていた空中ケーブルは姿を消しました。
小川郷駅および原料採取地の積込場などの施設や小川郷駅の鉄道側線などは撤去され、整地されて住宅団地へ転用されました。
多くの事象がスピード化、コンパクト化へ向かう時代にあって、それとは真逆のゆっくりしたスピードで、見てはのんびり動く空中ケーブルのバケット。人々はその光景に何をみていたのでしょうか。
(いわき地域学會 小宅幸一)
その他の写真
架空索道(空中ケーブル)の経路〔1/25,000地形図 水石山、四倉(昭和51年測量〕
小川郷駅の粘土積込場建設(昭和37年10月、国府田英二氏提供)
小川郷駅に竣工した粘土積込場(昭和37年、国府田英二氏提供)
架空索道を小川郷駅に向って東側から見る・小川町大字三島地内(昭和37年、国府田英二氏提供)
小川郷駅舎を広場を挟んで向かい側の建物屋上の高みから見る架空索道(昭和30年代後期、国府田英二氏提供)
小川郷駅に粘土を運ぶ架空索道・小川町(1)(昭和42年10月、いわき市撮影)
小川郷駅に粘土を運ぶ架空索道・小川町(2)(昭和42年10月、いわき市撮影)
小川郷駅に粘土を運ぶ架空索道・小川町(3)(昭和42年10月、いわき市撮影)
小川郷駅に粘土を運ぶ架空索道・小川町(4)(昭和42年10月、いわき市撮影)
小川郷駅の頁岩を積んだ貨車と背後に架空索道(昭和43年9月、いわき市撮影)
小川郷駅の頁岩積込場と貨車群(昭和43年9月、いわき市撮影)
頁岩の運搬積込場・平上平窪(1)(昭和40年代、長谷川達雄氏撮影)
頁岩の運搬積込場・平上平窪(2)(昭和42年10月、いわき市撮影)
小川郷駅から延びていた粘土運搬の架空索道(昭和54年11月、いわき市撮影)
小川郷駅ホーム越しに架空索道を見る(昭和54年11月、いわき市撮影)
小川郷駅東側の住宅地(平成20年5月、国府田英二氏提供)
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