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第48回吉野せい賞/第49回吉野せい賞作品募集ポスター受賞作品が決定!!

更新日:2025年10月7日

第48回吉野せい賞

吉野せい賞応募数及び選考委員

  • 応募総数
    32編
    ジャンル別内訳 小説:26編、戯曲:1編、ノンフィクション:5編

  • 選考委員
    鈴木 俊之、永沼絵莉子、福住 一義、吉田 隆治(50音順)  

 

選考結果

準賞

 タイトル  「凪ぐ(なぐ)」 (小説)  

 作者名   良川 十鵜(よしかわ とおう) 

【あらすじ】
 息子家族と同居する富次は、高校生の長男、中学生の長女、まだ幼い次女の3人の孫に囲まれ賑やかな日常を送りながらも、かつて自分の過ちによって命を落としてしまった弟と従兄弟の命日には1人墓参りをしている。自分だけが今も生き長らえている後ろめたさを抱える富次に、寺の和尚は「気長に付き合っていくしかない」と言うが、その迷いは断ち切れない。そんな中、息子夫婦が駐車場から発進させた車に幼い次女が轢かれそうになるのを身を挺して守った夜、富次は布団の中で身体の痛みを感じながらも「自分はこの時のために生かされてきたのだ」とようやく思うことができたのだった。

【選評】

・「己が名も捨て具合良し」。子どものころ、弟といとこが水死したのは自分のせいと、胸に秘めて生きてきた富次に、生前、和尚が書き留めておいたはがきが届く。魂の救済を暗示するラストシーンが印象的。

 ・言葉の立ち上がる世界が良い。読んでいて気持ちが良かった。

 ・淡々としていて読後の印象が良い。

 

奨励賞 

 タイトル  「ファミリー(The Family) (ふぁみりー)」 (小説)  

 作者名   伊関 鉄也(いせき てつや)

【あらすじ】

 1920年代、英国の名家カーター一族の最長老マーガレットが亡くなる。生前彼女は曾孫である幼いジェイムズと自分が「同型」であることを見出し、時折その身体に自分の意識を注入していた。成長したジェイムズは、自分と同じ型を持つサンディと出会う。二人はすぐに意識の共有をするようになり、深い繋がりを育んでいく。やがて二人の道は別れ、ジェイムズは戦闘機のパイロットとなるが敵機の攻撃によって大怪我を負い、運ばれた病院で看護婦となったサンディと再会する。再び意識を共有しながら老年まで共に暮らすが、「同型」の子孫が生まれない。カーターが亡くなった5ヶ月後、独りとなったサンディは生まれたばかりの曾孫が「同型」であることに気づき、その意識の中にジェイムズの存在を見る。

【選評】

 ・イギリスの貴族社会に輪廻転生を絡めて破綻がない。リアリティもある。

 ・今までになかった作品。独自性が際立っている。

 ・せい賞応募作品が新しいステージに入りつつあるのを告げるような作品。

 

奨励賞

  タイトル  「未完の魂(みかんのたましい)」 (小説) 
  作者名   中山 孔壹(なかやま こういち)


【あらすじ】

 高校生の聡は母を亡くし、『未完の魂』という一冊の本と出会い、その本に書かれた物語の運命を引き継ぐのは自分だと直感する。母の四十九日が迫るある日、母の遺した手紙から聡は魂の存在について興味を持つ。医大生となった聡は、医師・物理学者でもある先生の講演会を聞き感銘を受け、「心と魂の学科」について学び始める。身体の治療と魂の治癒の間で逡巡する聡の夢の中に母が現れ、母の魂を解放することに成功する。大学病院の研修医となった後も医療の現実と己の理想の間で苦悩するが、一人の患者の死とその家族の姿をきっかけに「赦し」こそが執着や欲望から魂を解放する手立てなのだと気づき、かつて出会った『未完の魂』を完成させた。

【選評】

 ・サイエンスの知識を踏まえながら心霊の世界に分け入り、破綻がない。

 ・構想が良く、魅力的。

 ・思弁性・抽象的で論文調なのが作品を難しくしている。

 

奨励賞

  タイトル  「くぐる」 (小説) 
  作者名   渡部 綾音 (わたなべ あやね)


【あらすじ】

 小学生の頃より転校を繰り返している美琴は、転校先の高校で同じクラスの間宮蒼真と出会う。シングルマザーの母に迷惑をかけないよう、自己主張をせず感情を表に出して来なかった美琴のことを蒼真は気にかけ、放課後の教室で声をかける。クラスメイトに神社の例大祭に誘われた美琴は、母に内緒でお祭りへ出かける。友人たちや神主の息子である蒼真と楽しい時間を過ごし、人の輪の中にいる「本当の自分」と出会った美琴は、母にも自分の本当の気持ちを伝え、これからは自分の気持ちに嘘をつかずちゃんと生きていく決意を胸に抱く。

【選評】

 ・文章が印象的、よく頑張って書いた。

 ・等身大で作品を表現していて良い。

 ・鳥居をくぐる、それは本当の自分に出会うこと、という視点に新鮮なものを感じた。

 

青少年特別賞

  タイトル  「ステップ」 (小説) 
  作者名   小林 礼依 (こばやし れい)


【あらすじ】

 中学2年の拓人は人に注目されることが苦手で、ダンス部に所属しながらもステージには立たず部員のサポートとして裏方の活動を続けていた。ダンス部は強豪と呼ばれた3年生が引退し、部長を務める塁明と共に次の大会に向けた練習が始まるが、本番の近づく中、塁明が事故で足の骨を折ってしまう。塁明は自分の代役として拓人を指名し、「ステージ上での失敗は、もう一度ステージに上がらないと吹っ切れない」と諭す。大会当日、周囲のサポートを受けながらステージで踊りきり、優勝のアナウンスを聞きながら、拓人はまた新しい目標を見つけるのだった。

【選評】

 ・中身が濃く、歯切れが良い。

 ・さわやか。ダンス部というのが今どき。

 ・破綻なく、起伏もあり、後味が良い。

 

総評

 

・今回は応募総数が32編で前回の31編とほぼ同数だった。ジャンルも小説26編、戯曲1編、ノンフィクション5編と、童話の代わりに戯曲が入った程度で前回とそう変わらなかった。

・各選考委員選出による一次選考通過作品は11編(吉野せい賞対象10編、青少年特別賞対象1編)だった。これらを逐一議論し、次いで該当する賞の絞り込みを行った結果、準賞1編、奨励賞3編が決まった。正賞(せい賞)に該当する作品はなかった。青少年特別賞は全員一致で受賞が決まった。

・せい賞の一次通過作品10編のうち5編は作者が過去に奨励賞を受賞している。その意味では一定の水準を保って安定しているのだが、なかには技術的な停滞も見られる。漢字変換ミスが物語の味わいを損ねることもある。一字一句を大切にしてほしい。

・小説といえば「三次元」の世界が主だが、今回は近未来の社会を描いたり、江戸時代にタイムスリップしたりと、「四次元」の世界を舞台にした小説も目に付いた。今までは考えられなかったような事象を言語化する発想も広がりつつある。それらを既存の作品と比べて「奇妙な物語」群と呼ぶこともできる。少なくとも今回は応募作品32編の4分の1がこれに該当する。

・SNSの世界ではすでにAI技術を利用した小説がアップされている。選考委員会では「AI小説」を前提にした議論はなかったものの、今後はそのことも視野に入れないといけない時期にきたのではないだろうか。

  

作品の掲載

  準賞受賞作品「凪ぐ」は、総合文藝誌「風舎 第20号」(令和8年3月発行予定)に掲載する。(予定)


 

第49回吉野せい賞作品募集ポスター

吉野せい賞作品募集ポスター応募数及び審査委員

 応募総数 45点

 審査員 猪狩 智子、佐久間 静子 (50音順)

 

審査結果

最優秀賞 

藁谷 心花(わらがい こはな)   中央台南中学校2年

令和8年度の吉野せい賞作品募集の広報用ポスターとして使用します。

最優秀賞ポスター

「ここから広がるあなたの物語」

【講評】
 中央でペンを持つ少女の表情やカラフルで明るい色彩から物語を生み出すことの高揚感が伝わる作品。少女の周辺には、自らが書いている物語のワンシーンなのか、クラゲや魚などの海の生き物が泳ぎ、創作の世界に没入した少女自身もいつしか水の中にいる。浮力で広がる少女の髪や服、呼吸の泡など、水中ならではの表現が巧みで、難しい状況をよく描写している。また、少女の顔を中心に海の生き物や標語が広がる求心的な構図は、少女からあふれ出す物語の奔流を感じさせる。海の色の補色である黄色で強調された標語も明瞭で読みやすく、全体を通してポスターとしての発信力に優れている点が授賞の決め手となった。

優秀賞 

阿保 成海(あぼ なるみ)   平第一中学校3年

優秀賞ポスター1

「あなたの想いをあなたの言葉で」

【講評】
 美しい色彩と細やかな描写の調和がとれた作品。画面の上側でペンを持つ少女が生み出した物語が色とりどりの本となって螺旋状に積みあがっている。画面左下のページが開かれた本からこぼれ落ちたさまざまな物語の場面や登場人物たちが本の螺旋に沿って丁寧に描かれており、高い描写力と画面構成力が遺憾なく発揮されている。レタリングもバランスよく非常に整った書体で書かれており、本作の柔らかなトーンとよく調和している。色が淡く繊細な作品であるので、ポスターという媒体への適性という点で改善の余地があるが、創作という心の柔らかい部分に触れる活動の喜びが伝わる透明感にあふれている。

優秀賞 

中村 心咲 (なかむら みさき)   小名浜第二中学校3

優秀賞ポスター2

「ペンで綴る、この想い」

【講評】
 原稿用紙のマス目を背景に、今まさに万年筆で言葉を紡いでいる少女の右半身を切り取った大胆な構図が印象的な作品。遠近法によって強調された万年筆のペン先の力強さも含めて、構図のオリジナリティが際立っている。また、紺色のセーラー服にこげ茶色の長い髪の毛、黒い万年筆と、人物の全体を深い色調でまとめることで、強い構図に負けない緊張感のある引き締まった画面を実現している。周囲より彩度の高い青で描かれた瞳は、自然と観る者の目を惹きつけ、少女の想いの強さが感じられる表現となっている。レタリングや花など、人物以外の部分のバランス、色塗りの粗さは多少気になるが、創作活動へのゆるぎない情熱を静かに訴えかけてくる力がある。

奨励賞

  • 平第一中学校3年   大和田 さくら (おおわだ さくら)
  • 平第一中学校2年   木澤 結希   (きざわ ゆうき)
  • 中央台北中学校3年  佐藤 秀多   (さとう しゅうた)
  • 磐城学芸専門学校2年 根本 華    (ねもと はな)
  • 磐城学芸専門学校2年 吉田 夢々   (よしだ むむ)

 

総評

 今年度は昨年度を大きく上回る数のポスター作品の応募があり、関係者一同心から喜ばしく思っている。

 全国的に読書力が低下し、文章を書く機会も減少していると言われているが、中高生たちの、いわき市の作家吉野せいへの思いや、作品募集ポスターへの力量の強さを感じる作品が多く見られた。

 文章を書くモチーフとしてペン、原稿用紙、宇宙、海そして蝶等が表現されているほか、グラデーションやスパッタリングといった技法を用いた高度な作品や、色の構成がはっきりとして美しい作品が多かった。

 受賞作品は、いずれも基本を守ったレタリングが美しく、ことばも的確でわかりやすい。また、今回奨励賞となった、原稿用紙が破られそこから別の世界が見えるポスター作品は、新しい視点からの手法であり、さらなる描写の工夫があるとより迫力がある作品になると思う。

 他にもレベルが高い作品が多々あり、審査員としても大変嬉しく思っている。

 作品を仕上げてくれた学生達に感謝するとともに、皆さんの今後に期待したい。

 

ポスター展

  巡回展示日程(全作品を展示します)

  1. 令和7年11月1日~令和7年11月24日 いわき市立草野心平記念文学館 

  2. 令和7年12月4日~令和8年1月6日 いわき市立いわき総合図書館

  3. 令和8年1月17日~令和8年2月8日 いわき・ら・ら・ミュウ 2階市民ギャラリー 

このページに関するお問い合わせ先

観光文化スポーツ部 文化振興課

電話番号: 0246-22-7544 ファクス: 0246-22-7552

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